間違った夜に ここにいよう


・「eureka」/きのこ帝国

eureka

eureka


このアルバム出てから、何かと名前を目にする機会が増えたような気がするきのこ帝国。
ずぶずぶ沈んでいく、深くて重たい霧がかかった世界観…というのが、自分がこれまでこのバンドに抱いていたイメージだったけれど、今作はその濃さは少し控えめになった印象。その一方で曲調や音の幅が広がって、耳に残るフレーズも増え、中毒性が増した感があるかな、と。挨拶代わりに「今までやってきたこと」をぶつけたのが前作で、「今やりたいのはこんなこと」というのを詰め込んだのが今作、といったところ?


1曲目「夜鷹」。歌うというより語る。最初にこういう曲もってくるところからして挑戦的。
初めて聴いた時点で言葉が体の中を飛び交っていく感覚があった。スポークンワードの類は大好物なので、今後もこういう曲作ってくれると嬉しい。
続く「平行世界」は比較的1stに近い雰囲気。平坦で盛り上がりに欠けるともいえる曲展開だけれど、きのこ帝国の魅力がシンプルに詰め込まれていると思う。さめた空気の中に漂う体温。とても好き。
そしてインパクト抜群の「春と修羅」。「あいつをどうやって殺してやろうか」に始まり、派手(ある意味キャッチー?)なサウンドにのせて「なんかぜんぶめんどくせえや」と叫び散らす。こんな割とめちゃくちゃな曲が、気が付いたら脳内再生止まらなくなってるから恐ろしい…。


と、ここまで書いた序盤の三曲でぐっと心を掴まれた後の、「ユーリカ」「風化する教室」「Another World」が、バンドの新しい面を見せつけられる流れ。その姿が捉えきれない曖昧な心地よさ。特に「ユーリカ」が持つ透明感と異世界的な魅力は、何やら外に広がって行きそうな雰囲気があるように感じた。聴いたら何はともあれ振り返ってみずにはいられないような、人を惹きつける力。
一方で、生々しい感情や凄味を感じる部分は無く、その辺が少し物足りないようにも思えたりした…のだけれど、これはかなり好みの問題だと思う。


そしてその後に待ち構える「ミュージシャン」。聴いてると、バンドマンに限らずいろんな人の顔、いろんな過去や未来、そしていろんな曲が頭をかけめぐる、とてもとても大きな曲。この曲と、4曲目の「国道スロープ」は自主制作demoからの再録なのだけれど、アルバム全体を一つに繋いでいるのはこの2曲だと言いたくなる存在感がある。


ラストの「明日にはすべてが終わるとして」はこれしかないという感じの締め。諦めと優しさとあれやこれやが入りまじってて、聴いている時の心境で受け止め方も変わる曲…なんだけれど、聴き終わった時にすとんと何かが腑に落ちるような不思議な感覚があるのはいつも変わらない。ボーナストラックも含めて、心地よい着地点だな、と思う。



こうして全体振り返ってみて思ったのは、どうやら自分はこのバンドのこと、自分で意識している以上に好きらしい、ということ。そして今後どういう風に変化していくのかが気になって仕方がない、ということ。
1stの曲たちのように、個人的な感情をさらけ出して、渦を大きくしていくような方向性をとことん突き詰めて欲しい、という思いが正直あるのだけれど、多分そうはならないのだろうな、と思う。ただ、それとは違う形で、自分が思いもよらないような世界を見せてくれるんじゃないか、という期待感も確かにあって。


まだまだライブを観て、じっくり音を聴いて、触れていたい音楽がここにある。結局好きなバンドに対して思うことはいつも同じなのだな、と思った。








・満たされることによる焦燥感


余談。ボーカル佐藤さんのインタビュー記事を読んでいて、うーんと唸ってしまったのが、以下のような言葉。(OTOTOYからの引用だけれど、ナタリーの方でも似たニュアンスのことを言ってる。)


「いろんなことが充実してくると、つい(曲が)書けなくなるのかなって思うことが確かにありますね。でも、間違いなく徐々に満たされてきているから、もうこれは手遅れかもしれません(笑)。かといって、曲は素直に書いてきただけだし、現状の私にはそれしかできないから、それ以上のことは考えないようにしていますね。」


このジレンマ。


ちょっと違うけれど、聴き手として、歌い手やバンドの状態が順調じゃない時に作られた曲に魅力を感じることが多かったりもする…ひどい話だけれど。なんとも皮肉で悲しい。




更に余談


こうやってぐだぐだと文字を書き連ねて、さらには書いてないこともあれやこれやと考えて、気が付けば夜が過ぎていく。こういう時間の使い方は、ひどく馬鹿らしい気もするのだけれど、それでも大事にしたいと思う自分がいる。音楽と時間。ここにあるもの。