やせっぽちなこんな歌にしがみつく


ヘッドフォンチルドレン

ヘッドフォンチルドレン


近頃このアルバムの歌たちがやたらと頭の中で流れ出し、そして次々に突き刺さる。だいたいの作品は、時が経つごとに少しずつ印象が薄くなっていくけれど、この作品に関しては、色合いを変えながら少しずつ濃くなっていっているように思える。


歌いたい事も無く 歌うべき事も何も無い
それでも歌いたい 歌わなきゃ気が狂いそうさ

(「運命複雑骨折」)
http://j-lyric.net/artist/a0006e4/l013b8a.html

菅波栄純という人の書く詞は、呼吸音が聞こえてきそうなぐらいにいつも生々しい。
この歌を初めとして、このアルバムに入っている曲のほとんどが、自分にとって何かしら意味のある言葉を含んでいて、その言葉がこれでもかと音の中を動き回っている感触がある。


そんな言葉と音の流れの中で、このアルバムを特別なものにしている何よりの要因が、表題曲、「ヘッドフォンチルドレン」。

この曲の歌詞はちょっと奇跡的に思えるぐらいに自分の中にすっと溶け込んでくる。この感覚は何なんだろうと、聴くたびに自問するけれど、わからない。とにかく、空っぽで、痛々しくて、救いはなくて、それでも音が聴こえる。

世界が終わる頃 生まれた俺達は
消えない虹を見て 途方に暮れていた

籠の中閉じ込められた青い鳥は
自由になりたいなんて思ってない気がした
「ヘッドフォンチルドレン」俺達の日々は
きっと車に轢かれるまで続いてゆく

声を聴かせて
ヘッドフォンの中になんて救いはないよ
歌を聴かせて
そんなことはわかってるよ わかってる

http://j-lyric.net/artist/a0006e4/l013b7d.html

音が聴こえる。

(↑の動画の演奏はCD音源とはだいぶ印象が違うけれど、伝わるものは同じ。「番茶に梅干し」も、とてつもなく良い曲なので是非一緒にどうぞ。)


さらに、そこからの「キズナソング」。この曲単体だと綺麗すぎて好きになれなかったかもしれない。けれど、この2曲の連なりが自分には本当に素晴らしいものに思える。

誰もがみんな幸せなら歌なんて生まれないさ
だから世界よ もっと鮮やかな悲しみに染まれ

この歌い出しがたまらなく好きだ。あれもこれも、目の前の全てが染まっていく感覚。そしてそれらがゆっくりと歌になっていく。

街に座って久しぶり笑いあって
楽しげに悲しい歌 かき鳴らしてる今夜

ああもう。こんな言葉使いたくないんだけど、何でこんなに愛しいんだろう。
そしてとどめ。

町中に溢れるラブソングが
少し愛しく思えたのなら素晴らしい世界

本当にラブソングってものが苦手で、大好きなミュージシャンの曲であっても拒否反応を起こしてしまったりする自分だけれど、この言葉は胸に沁みるものがある。普段、自分が生きてることの違和感を消すことができずに過ごしているわけだけれど、このフレーズを聴いていると、自分が立っている場所が少しだけわかるような気がする。

http://j-lyric.net/artist/a0006e4/l003693.html




その向こうに救いは無いのかもしれないけれど、それでもヘッドフォンから音が鳴り響いている限り、続いていくものがあると思う。それを忘れないでいたい。