夜明け前


COSMONAUT

COSMONAUT


 音数の少なさ、アルペジオの綺麗な音、耳に残る特徴的なリズム。言葉の柔らかさ、より記憶の内側へと入り込んだ歌詞世界。部分部分を切り取れば、数え上げればきりがないほどに、多くの点において変化が感じられる今作。でも、自分が聴いてまず思ったのは、「ああ、いつものBUMPだな」ということだった。

 初めて聴く時の高揚感、新しく出会うフレーズに対する新鮮な驚き、そして何より、感情を激しく揺さぶられながらも、最後にはなんだかほっとする、安心感。BUMPに出会ってからもう10年近く経って、いろんなバンドの音楽に触れたけれど、やっぱりBUMPの曲でしか味わえない感覚が未だに存在している。その事実が、理由もなく嬉しかったりする。


 あくまで自分の印象だけれど、今作には、一撃必殺みたいなパンチ力がある曲や、1曲の世界観に酔っちゃうような壮大な曲は無いけれど、その分アルバムとして凄くまとまっている気がした。正直、orbital periodやユグドラシルなんかは、シングル曲の一部が浮いているような感が否めなかったけれど、今作はどれもよく馴染んでいる。三ツ星カルテットからのR.I.P.の流れは初めて聴いた時痺れるものがあったし、宇宙飛行士への手紙なんかはシングルで聴くよりこの流れで聴いた方が断然ぐっとくるものがあった。orbital periodが、長編の物語にいくつかの繋ぎを挟んでまとめた全集のようなものだとすれば、COSMONAUTは、初めから一冊の本になるように作られた短編集のような感じ。もっとも、BUMPのメンバーはそんなこと考えて作ったわけではなく、自然とそうなった、ということなんだろうけれど。 


あなたのその呼吸が あなたを何度責めたでしょう
それでも続く今日を 笑う前に 抱きしめてほしい
(「ウェザーリポート」より)


地球は綺麗事 君も僕も誰でも何でも
君の嫌いな ただのとても 綺麗な事
(「イノセント」より)


怖くても誰も背中押さないよ 押す方も怖いから
それくらいあなたは勇敢な人 まだ泣けないまま 飛び出してからずっと
(「beautiful glider」より)



 温かいのにぐさぐさくる言葉の数々。いつものことだけれど、もう全部歌詞載せてしまいたくなる。さっき短編って例えを使ったけど、どれもこれも、その一編の中で完結する類のお話ではなくて。聴いた後、人によっていくらでもその世界が膨らんで行くような、奥行きと余韻のある物語。歌詞だけでなく、音の面でも、そんな風に感じさせられる。


 この文章を書きながら曲を聴いている間にも、また新しい発見があって、また新しい感情が生まれてくる。ほんとはBUMPの曲に限らず、どんな音楽だってそういう側面があるんだろうけれど、このアルバムはそんな広がりを、はっきりと感じさせてくれる。とりあえず、今、このタイミングでこの曲たちに出会えたことが、とても嬉しい。そして、これからこの曲たちがどんなふうに変わっていくのか、とても楽しみに思う。



優しさの真似事のエゴでも
出会えたら 無くさないように

優しさの真似事は優しさ
出会えたら迷わないように
出会っている 無くさないように
(「透明飛行船」より)



 そう、出会ってる。
 そして、もっと出会えるように。