いつかは重なるように、

・「ほぞ」/Climb The Mind

ほぞ

ほぞ


生活。歳をとるということ。そして終わりと始まり。
こうまとめてしまうとありふれたテーマのように思えるけれど、
3ピースのバンドが鳴らす音楽として、
ここまで温度や質感がしっかりと伝わってくる作品にはなかなか出会えない。
そう感じる作品だった。
ポストロック的なリズムとサウンドでありながら、
日本語の響きがごく自然に自分の中に入り込んでくる。
久しぶりに会う人と交わす、なんだか懐かしい匂いがする会話のように。



そのうち明るい日が来るでしょうと、君は耐えているけど、少し痩せた体をくねらせて必死に何を伝えるの。萎れた栞を僕に手渡すと、小さな子供が走り出した。「ぼくらみんな友達だったよね」今は背を向けて歩いていくから。
(「萎れた栞」より)



歌詞カードには、句読点あり、改行無しで、
まるで短編小説のように、言葉が綴られている。
いくつかの単語は曲の中で音としては歌われず、
ただ文字としてだけそこに存在しており、
中には、綴られた言葉の内4分の1ぐらいが歌われていない曲もある。
では、その言葉たちが曲にとって必要なかったかというと、
当然「No」であり、音の隙間から、それらの「歌われなかった言葉」
が滲みだすように染みだしてくる。



これまでのこと。いろんなものがまた糸を垂らした。(お好み焼きを作る)寡黙な亭主。(栗の花を横ぎって子宝に恵まれた)嬉しそうな夫婦。(小さなテレビに映る野球中継に齧りつく番台。)それぞれの気持ちを噛み締めて、この静けさの中。
(「散髪の翌日」より) 



ナレーションのように落ち着いていて、
それでいて時にとてつもなく感情的な山内さんのボーカル。
アルバム全体として、かなり重い題材ばかりを扱っているのに、
不思議と温かい雰囲気が漂っているのは、
彼の歌声によるものが大きいように思う。


出会うこと、別れること、消えてしまうこと。


全曲聴き終えるまでに、人それぞれ、
本当に多くの記憶が頭に浮かぶことだと思う。
そして考える。それぞれが、それぞれのことを。



このCDが、たくさんの人に届いて、
たくさんの想いを生み出しますように。


声はとおく、もういないけれど、どこかでまた会えるような。空から聞こえたんだ。「いつまでも笑ってて」
(「空から聞こえたんだ」より)


http://www.myspace.com/climbthemind