syrup16g ’LIVE FOREVER’ the last waltz of syrup16g 


アリーナ、東、西、南、更にはバックスタンド。
ステージの周囲360度が、日本全国から集まった人達で埋め尽くされている。
緊張感、寂しさ、期待。たくさんの思いが詰まった空気が支配する武道館内。
もうすぐ始まって、そして終わるんだな、と、
ただそれだけをぼんやりと考えながら待った。


午後5時半、開演予定時刻。
会場内には入場した時からシロップの過去曲がBGMとして流れていたけれど、
ここで計ったかのように「土曜日」が流れる。ずるいな、と思った。

来るわけない、土曜日は、あっさりと来てしまった。



何とも言えないざわめきの中、
遅れること10分ほどで、照明が落ちた。

ゆっくりと、静かにメンバーが登場すると、
いたるところから「五十嵐ー」の声が生まれる。
黄色い声だけでなく、太い声に掠れ声、泣きそうな声、
まるで競い合うように声がかかった。


そんな中、やはりと言うべきか、メンバーは一言も発することなく演奏が始まる。
静かに流れてくるギターの音。一気に武道館に沈黙と緊張が広がっていく。

一曲目は「きこえるかい」

個人的にまさかこの曲で始まるとは思っていなかったので震えてしまった。


いいさ どんな言葉でもうけるよ
知らせるさ 君には きこえるかい


ワンフレーズそれぞれをしっかりと確かめるように歌いあげる五十嵐さんと、
重たく確実に響く中畑さんのドラムとキタダさんのベース。
二回目のサビと、ラストの掠れた叫びの繰り返しには、早くもこみ上げてくるものがあった。


曲が終わって余韻に浸る間もなく、「無効の日」


本気出してないままで終了です 後は箒で掃いて捨てる


またしても、ずるい、と思う。本気出してくれよ、と、
そういう問題じゃないとは思いながらも言いたくなってしまう。
いろんなことが頭をめぐって、そして消えていく。


無言の緊張感を保って、三曲目に早くも「生活」
更に「神のカルマ」と、代表曲と言っていい曲が続く。
神のカルマで五十嵐さんが「おい!」と叫ぶところで、
理由もなく胸を抉られるような感覚があった。ひりひりする。

アリーナも二階席も、皆、その場に立ち尽くして聴いている。


神のカルマが終わって、少し間が開いた。
一曲目の前の声援が嘘のように、静まり返っている場内。
そこに大きく足跡を残すように、ゆっくりとドラムの音が響いて、
「I・N・M」が始まった。

正直言って五十嵐さんのギターは危なっかしくて仕方がない。
けれど、淡々としたリズムの中に、三人の呼吸が伝わってくるような演奏だった。
全力の歌声が確実に届いてくる。


俺は俺であるために ただ闘っている精一杯


続いて、「Anythihg for today」の奇麗なメロディを響かせたかと思うと、
次に「イエロウ」をもってきて、なかなか一つの雰囲気で落ち着くことを
許してくれない。各アルバムからの偏りない選曲。本当に一曲ごとに空気が変わるのを感じた。

さらに「月になって」
「ありのまま何もない君」というフレーズは聴くたび胸をしめつけられるけれど、
やはり生で聴くと切なさが増す。それもこれで最後だ、とか、いらないことまで考えてしまう。


そして、無言のまま迎えた「負け犬」
張りつめた空気の中、初っ端五十嵐さんがイントロのギターをミスして中断。
苦笑いでもう一回の合図をする五十嵐さんに会場の空気が一気に緩む中、

「負け犬だけに」

と一言。まぎれもなく今日の第一声がこれ(笑)最後の最後まで彼らしいというかなんと言うか…
あのまま緊張感を持って続いて欲しかった気も少ししたけれど、やっぱりこういうのも
含めてシロップなんだと思う。温かい笑いと拍手の後、
そうしてできた雰囲気を振り払うかのように、再び演奏が始まった。

ある種シロップの雰囲気を象徴するような曲が、ゆっくりと武道館に響く。

それまでとは少し違った雰囲気で曲が終わりを迎え、
この日初めて五十嵐さんが「ありがとう」と言っていたのが印象的だった。


10曲目は、「希望」。「夢」とセットで何度も聴き倒した曲だけれど、
まさかやるとは思っていなかったので嬉しかった。


希望集めて 洗って たたんで いつか身にまとうその時 迎えに来てくれ


会場はやはり少し緊張感が抜けたのか、曲の合間に声が飛び交うようになってきた。
そんな中で、唐突に中畑さんとキタダさんがステージから去って行く。
「???」と思っていると、五十嵐さんがアコギを手に椅子に座る。弾き語りだ。

「センチメンタル」「明日を落としても」

ラストライブの中盤に一人で歌うというのには、いろんな意見があると思うけれど、
個人的にここはかなりグッとくるものがあった。シンプルなギターの音に、
五十嵐さんの声がより鮮明に、痛烈に響いてくる。
特に「明日を落としても」のラスト。「Do you wanna die?」の叫びが、
どうしてそこまで、と言いたくなるぐらい強烈だった。


再びメンバー三人がそろって、「もったいない」「生きたいよ」
と、タイトルだけでも何か感じさせられてしまう曲が続く。
「もったいないなら代わって」の叫びには、もう何も言えない。
「生きたいよ」はシロップで最初にはまった曲だったけれど、
これまたやるとは思っていなかったので、イントロを聴きながら汗が滲むのを感じた。

15曲目にきてようやく新譜からの曲、「途中の行方」。

序盤の緊張感が少し納まり、二階席では座って聴く人が増えるなど、
落ち着きが感じられてきた場内。


ここからが凄かった。

いや、ここまでも十分中身の濃いステージ
だったわけだけれど、ここからの演奏は圧巻だった。

まず、例の独特のコーラス(はっきりとはわからないけど三人でやっていた気がする)から、
ex.人間。イエロウの時も思ったけれど、
HELL‐SEE収録曲は録音の仕方も手伝って、ライブでは全く違った表情を見せてくる。
「美味しいお蕎麦屋さん見つけたから」なんて気の抜けたフレーズが、
彼らの手にかかると何故あんなふうに響いてくるのだろう。

そして、「正常」。これがとんでもないことになっていた。
キタダさんのベースがこれでもか、これでもかと暴れまわる。
五十嵐さんのギターも間奏、そしてアウトロと、切れ味を増していく。
中畑さんもそれに追い打ちをかけるように、髪を振り乱して叩く。
鳥肌ものだった。


二曲続けての凄まじい演奏に、大きな拍手が起こる中、
五十嵐さんが少し笑みを浮かべながら口を開く。

「もう終わっちまうよ、おい」

観客が一瞬静まり返った。

「終わっちまうんだなー…終わっちまうよ、くそ。」
少し遅れて、次々に「終わらなくていい」「やめないで」、
「頑張れ」「ありがとう」といった声が会場を埋め尽くす。
よく聞き取れなかったけれど、五十嵐さんは何度も同じ言葉を呟いていた。
ここにきて、本当に終わってしまうんだな、という思いが急速にこみ上げてきた。


そして「パープルムカデ」。変則なリズムのこの曲を、中畑さんのドラムが
力強く引っ張っていく。歌声に力が増していく。

ここからは怒涛の勢い。
「天才」「ソドシラソ」「Sonic Disorder」と、
シロップのライブではお馴染みの攻撃的な曲が続く。
激しい演奏の中、時折3つの楽器の音が全て消えて生まれる一瞬の静寂と、
その次の瞬間の重なる音が生み出す高揚感がたまらない。(サビの終わりや間奏の節目など)

20曲を超えて盛り上がりが最高潮に達する中、聴きなれないメロディと歌が
聴こえてくる。新曲か?と思っていたら、すぐにcoup d’Etat、そして
空をなくすが始まった。どうやら特別なバージョンだったらしい。
歌詞がよく聞き取れなかったけれど、フォーエバーとか言ってたような言ってなかったような…

そして息つく暇もなく、「リアル」
馬鹿みたいな形容しかできないけれど、ただただ凄かった。
ギターもドラムもベースも、そして声も。圧倒的な存在感。


本当のリアルはここにある


最後の一音まで鳴らしきり、メンバーがステージから去っていく。
アンコール前の本編だけで、気がつけば24曲もやっていた。あっと言う間だった。




そして、アンコール。




武道館を埋め尽くした人が作る拍手が、何度かリズムを変えながら鳴りやまずに響く。

けっこうな時間が経った(少なくともそう感じた)後、
お辞儀を繰り返しながらメンバーが登場すると、会場から「ありがとう」の声が
次から次へと覆いかぶさるようにしてステージに向けられた。


そして、ギターと歌声が重なるようにして「さくら」が始まる。
もうこの辺りからは本当に目が潤んで仕方がなかった。
アルバムが発売されてから何度も何度も聴いた曲。
そして武道館に来る間も頭の中で繰り返されたこのフレーズ。


これはこれで 青春映画だったよ 俺達の


わかっていても、やっぱり実際声が響いた瞬間に、やられてしまった。
その後の、涙さえも笑う、という単純な言葉が妙に胸に響く。


半ば放心状態のまま「ニセモノ」に聴き入って、
そのまま新アルバムからの曲が続くかと思いきや、何と新曲。
優しい歌声が全面に押し出されたミドルテンポの曲だった。

帰ってからいろんな掲示板やブログを見たけれど、どうやら
今までやったことのない曲らしい。素直に良い曲だと思った。


ゆっくりと曲が終わり、一際大きな拍手の後の余韻が残る中で、
「イマジネーション」。

「さぁ 終わりにしよう」の歌いだしはもはや反則に近い。
解散ライブでこの曲は、あまりにも泣ける要素が多すぎる。


たくさんの歌 たくさんの思い出が イマジネーション 体を突き抜けていく


最初のサビの盛り上がりで、一気に感情を抑えられなくなってしまった。
その後の 「scene through」が始まって終わるまで、
ステージから目をそらさないようにするので精一杯だった。
ラストの「ラララ」が妙に寂しげに聴こえて、どうしようもなかった。





二回目のアンコール。
また拍手と声が至る所から鳴り響く中、
静かに始まったのは「She was beautiful」。
盛り上がっていた会場が一変、また一気に序盤のような緊張感が蘇る。
まさかここでこの曲を持ってくるか、と。
音楽と人のインタビューで、五十嵐さんが、COPY収録後にこの曲を
初めて聴いた時に泣いてしまった、と語っていたのを思い出した。


眠りにつくように最後の一音が鳴りやむと、間髪入れずに
ドラムの音が暴れ始める。ベース、ギター、と順番に音が重なっていき、
「落堕」のメロディが作り出されていく。

そのまま一気の勢いで「真空」へ。
狂ったようにフラフラと動きながらギターをかき鳴らす五十嵐さん。
中畑さんが「ロックンロール!!!」と叫ぶところの盛り上がり方は凄まじかった。




そして三度メンバーが去って、ついにラストのアンコール。
中畑さんが五十嵐さんをおんぶして登場し、
場内が何とも言えない、温かい空気に包まれる。

少し照れくさそうな顔をして、五十嵐さんが喋りはじめる。
はっきりと聞こえなかったけれど、
「明日が来るのかもわからないですけど。…
明日を歌った曲がたくさんあるので、是非また思い出して聴いてください。
これからやるのも、明日を歌った曲です。」と、こんな内容だったと思う。

正直な話、落堕の段階で、もうどういう順番で曲が来るかはわかって
しまっていたのだけれど、この言葉の後に続いた「翌日」には胸が詰まった。
どこまでも透明で、寂しくて、儚げで、それでいて希望を感じさせる曲。
NHKホールの解散宣言後にもやったというこの曲。

いよいよ終わり、と思うと共に、また感情の波が押し寄せてきた。



演奏が終わり、再び五十嵐さんが語りだす。

感謝の気持ち。満員の武道館への驚きと感慨。
これもよく聞こえない部分があったけれど、噛みしめるような話し方が印象的だった。

そして唐突に「メンバー紹介しようか」と苦笑いのような表情を浮かべながら
言う五十嵐さん。中畑さんが笑いながら手をあげ、キタダさんも観客を見渡して紹介を受ける。
最後に、照れくさそうに、しどろもどろになりながら自分を紹介する五十嵐さん。

ふと周りを見ると、泣きそうになりながら笑っている人がたくさんいた。


最後に「今日はありがとう。いい夜でした。」と言って、
あのイントロを弾き始める五十嵐さん。

本当に、これでラストの「Reborn」
何のかんの言っても、やっぱり一番好きで、
いろんな時に、何度も何度も聴いてきた曲。
一つ一つの言葉が、柔らかく体を突き抜けていく。
全ての楽器と声が重なり合って、武道館に響き渡る。


期待して 諦めて それでも臆病で 本当の気持ちだけが置き去りになってゆくよ


ラストの直前になって、突然ぱっと客電が点いて、会場内全体が照らし出された。
ステージと客席が一体化したような感覚。この日何度目かわらないけれど、
またしても体が震えてしまった。

最後の最後、「生まれ変わってゆく」の「ゆく」の部分を、
何度も繰り返し、枯れそうな声で歌いあげる五十嵐さん。
遠くからだったけれど、その姿が目に焼きついている。



演奏が終了して、拍手と呼び声が鳴りやまない中、
三人が中央に集まって、手をつないでお辞儀。
中畑さんが五十嵐さんの腕を引っ張って中央に並ばせていたのと、
キタダさんが呼びかけてバックステージ側にもお辞儀をしていたのが印象的だった。

そして、本当に大きな拍手と共に、未練を見せることもなく、あっさりとメンバーは退場。
最後に残った中畑さんは、ジャンプして両足着地でステージから消えていった。







三時間以上だけれど、本当にあっという間だった。
不思議と悲しさとか喪失感みたいなものはなかった。
それよりもむしろ、これから、を与えてくれるようなライブだった気がする。

言いたいことはいくらでもあるし、まだこれからも出てくるんだと思う。
でも、今は一言だけ、

ありがとう、と言いたい。

そして、また再びそれぞれが新しい形で鳴らす音楽が届けられるのを、
今はただ待ちたいと思う。

最後にもう一度、ありがとう。




一度にそんな 幸せなんか 手に入るなんて 思ってない
遠回りして行こう